日本の森林面積は24,935 万ha。これは国土面積の68.4%、ほぼ3 分の2 を占めています。
この森林比率は世界233 ヶ国中22 位であり、OECD(経済協力開発機構)加盟国38 ヶ国ではフィンランドやスウェーデンに継いで第3 位の森林国です。
日本の森林が育み、水源から湧き出す水は、私たちの飲料水や生活用水、または農業用水や工業用水として使われ、私たちの毎日を支えています。
日本の降水量は年間1,690ml と世界平均の約2 倍ですが、日本は人口が多いため人口1 人当たりの降水量となると、世界平均の3 分の1 ほどになってしまいます。日本の雨量は決して多いとは言い切れません。
しかし、私たちが日常生活の中で水を豊富に使うことができているのは、日本の森林と山が雨水をしっかり吸収し内部にため込み、少しずつ放出していくという「天然のダム」として機能を果たしているから。こうした水源林が日本は多数存在します。
水源の森
1995 年7 月、林野庁は「昔から水を得るために森林を守り、育て、また、水と一体になった森林空間の利用施設を整備するなど、森林所有者はもとより地域住民の努力のもとに維持されてきた森林」として「水源の森百選」を選定しました。
この百選には岡山県新庄村の「毛無山(けなしやま)ブナ林」も入っています。新庄村は、私が以前指導した生徒さんが米や野菜作りに取り組んでおり、私も過去に2 回ほど現地を訪れて田畑や森を視察し、実際に森林や山を守り育てている皆さんと交流しました。
毛無山ブナ林を通して湧き出す水は新庄川となり、さらに目木川や備中川と合流して一級河川「旭川」の流れを形成します。
こうした大きな川のスタートとなる水源は、水源の地域に住む人たちの不断の努力で守られているのです。
日本の水と農業
水はさまざまなことに利用されますが最も多く水を消費するのは【農業】です。
日本の水の年間使用量は785 億㎥。これを農業用水、工業用水、生活用水の3 カテゴリーで分けると
・農業用水:533 億㎥
・工業用水:103 億㎥
・生活用水:148 億㎥
実に年間使用量の3 分の2 強が農業に使われていることになります。
農業での水は、これもまた3 つに分けられ
・稲作に使われる【水田かんがい用水】
・野菜や果樹のための【畑地かんがい用水】
・家畜の飼育のための【畜産用水】
このうち、水田かんがい用水が農業用水全体の94%を占めています。日本人の主食・お米を育てるためにぼう大な水が使われていることが分かります。
この水を田畑に運ぶためのかんがい施設が全国で整備されています。
かんがい施設は
・用水路・・水を田畑まで運ぶ
・排水路・・余分な水を河川へ戻す
・頭首工・・周辺の田畑より低い河川の水を取り入れる
・貯水ダム、ため池・・水不足時のため余水を溜めておく
などから構成され、特に用水路と排水路を合計するとその⾧さは約40 万キロメートルもあります。
これは地球の外周10 周分にあたる⾧さ。このとてつもなく⾧い水路を、私たちの先人たちは⾧い年月をかけて築いていったのです。
お米を育てるために、古来より水にまつわる争い事が絶えませんでした。このため、水を公平に分けるための施設が考案されました。
例えば山梨県北杜市⾧坂町の「三分一(さんぶいち)湧水」
これは枡の形をした水だまりに水が流れ込み、ここから3 つの方向へ均等に水が流れていく仕掛けです。
この施設が最初に作られたのは武田信玄がこの地を治めていた戦国時代。分水枡の中の三角石柱は武田信玄が立てたという伝承が残っています。この施設は修復を重ね今も使用されています。
また「円筒分水」と呼ばれる施設も全国で多数作られました。円筒分水は、円筒状の施設の中心部に水を噴き上げさせ、円筒の外縁へ水をあふれさせ、あらかじめ決められた配分比で複数の水路に水を流す仕掛けです。
写真の施設は神奈川県川崎市高津区の久地円筒分水です。江戸時代初期から使われている二ヶ領用水(にかりょうようすい)から水を取り、4 つの用水路へ水を分けています。
こうしたかんがい施設を見ると人がいかに水をめぐって苦労してきたかがわかります。
人の歴史は水と農に支えられています。私たちはこのことをもっと意識していく必要があるのではないでしょうか。
■参考文献:
・Global Forest Resources Assessment2020-FAO(Food andAgriculture Organization)
・「日本の水」 国土交通省水管理・国土保全局水資源部
・「令和4 年版 日本の水資源の現況」国土交通省水管理・国土保全局水資源部
・「水源の森百選」 林野庁ホームページ
・「世界のかんがいの多様性」 農林水産省農村振興局計画部事業計画課